蕎麦打ち教室



▼ 道具と材料を揃えよう  ▼ 用意する道具  ▼ 必要な材料
▼ 蕎麦打ち教室 - 実践編  ▼ 水回しと練り
▼ 延ばす  ▼ 畳む  ▼ 切る  ▼ ゆでる  ▼ 後の仕事



蕎麦打ち教室 - 準備編

 錬金術「蕎麦打ち」を一人でも多くの人に実践していただきたいという願いを込めて、蕎麦打ち教室のページを作りました。道具や材料、打ち方の基本を紹介します。はじめて挑戦する蕎麦打ちの実際です。ここで読んだ知識だけで打っても大丈夫。必ず美味しく食べられることは請け合えます。なぜなら究極の味は素材で決まりますから。ただねえ、やりもしないで難しいと言ってては、何もはじまりませんが。もし蕎麦が嫌いなら、うどんに挑戦してみてください。次のページは「うどん教室」を予定しています。うどんは記述が難しいな....。


 蕎麦打ちには、人により地域により何通りも流儀があります。東北の一部には「断ち蕎麦」という方法があったり、地域によっては麺棒に巻かずに打つなど、地方による違いもあります。ですから、これでなければ蕎麦打ちじゃぁないと言うものはありません。ここで紹介するのは、はじめての蕎麦打ちを容易にする私流の打ち方で、誰でも家庭で楽しめる素人蕎麦職人流です。プロセスもさることながら、食べて美味しいという結果を重視しています。なんてったって、蕎麦打ちは錬金術ですから....



道具と材料を揃えよう

 道具は、できるだけ自分で作るか、他のものを代用するようにしましょう。新たに高価なものを買って、一二度しか使わずに仕舞い込んだら、不経済ですし恥ずかしいことです。上達とともに、少しずつ買い足していけば、またそれが楽しみになります。楽しみを小出しにするのも上手な生き方かもしれませんね?<


用意する道具:


  麺板:

群馬の土地言葉では「メンパ板」と読んでいます。ホームセンターなどで売っているものは小さすぎます。私は建材の合版で自作しました。82×90センチで、大きくて使いやすいですよ。写真の一番下の板です。台所のテーブルがしっかりした平らな天板のものなら、これで代用できます。ただし足の弱いものは避けてください。


  麺棒:

ホームセンターで980円なり。太めのものが使いやすいです。長さは90センチのものを選びます。長過ぎると、向きを変えるときに身体に当たってやり難いですから。プロは短い棒と長い棒を使い別けますが、素人蕎麦職人にはそんな必要はありません。

  こね鉢:

写真のものは8千円ほどしましたが、これを買う前は10年間も大きめのボールを使っていました。今でもうどんはボールでこねています。めったに使われていないボールが台所にあるでしょう?

  メジャーカップ:

写真は600ミリリットルのもので、百円ショップで購入!これで十分です。もう一つ、粉を扱うのに200ミリリットルのメジャーカップがあると便利です。もちろん百円ショップで買いました。

  コマ板:

単に「コマ」とも言います。市販もされていますが、私は茶わんの入っていた箱で自作しました。無くても大丈夫ですが、慣れたら自分に合ったものを自作するといいでしょう。どんなものかはホームセンターなどで確認してください。はっきりしたきまりはありませんから、自分に合ったものを作るのが一番です。

  包丁:

包丁だけは、いつか自前の専用の蕎麦包丁が欲しいですね?写真の蕎麦包丁は刃渡り32センチです。上達するまでは、2〜3千円の麺包丁を使っていました。刃渡りが20センチ前後あれば、しばらくは菜切り包丁で間に合いますが、反りのある洋包丁は適しません。買うときには、重心ができるだけ中央に来るものを選びましょう。

  まな板:

市販の木製のものを用意します。プラスティック製のまな板は避けたほうがいいようです。欲を言えば、銀杏か桐で作ったものが最良でしょう。できるだけ幅の広いものを求めるようにしてください。もし材木を切り売りする店が近くにあったら、ホウの木または銀杏の木の板を求めるのもいいことです。

  ふるい:

打ち粉をまな板に振るのに便利なので、私には必需品です。百円ショップの裏ごしの網がちょうどいいですね?ハンドルを握って引く粉ぶるいでは、どうも上手くいきません。それに壊れやすいですしねぇ。



必要な材料:

  蕎麦粉:

値段は1キロ500円から1800円とピンからキリまであります。必ず1キロ買う、2キロは買わない、賞味期限よりも製粉年月日に着目し、できるだけ新しいものを求めること、夏期にも常温で保存されているよう販売店でなら、1ヶ月以上経過したものは買わないようにしてください。古くなると香りがひどく落ち、イヤな臭いもしますから。スーパーでは選べませんが、農産物直売所などで求めると、確実に国産の蕎麦粉が手に入ります。栽培している人がインターネットなどで通信販売しています。直売所では、普通1キロ入りで1000円が普通です。余ったらポリ袋に入れて、冷蔵庫に保存しましょう。

  強力粉:

スーパーで売っているものですが、蕎麦専用のつなぎ粉もあります。上達したら、薄力粉を2〜3割ほど混ぜて麩質(グルテン)の比率を調整すると、一層美味しくなります。卵、山芋などの「つなぎ」はいっさい使用しません。どちらもアレルギーを起こす人がいますし、蕎麦の持ち味を損なう恐れもあります。本当に慣れてから、好みで使うには構わないでしょうが、私は使いません。

  打ち粉:

できれば「花粉」という荒く挽いた一番粉をがいいんですが、普通の蕎麦粉でも十分です。最悪の場合は、コーンスターチでも間に合わせられますが、コーンスターチを使うと、ゆで湯を賞味できません。

  水:

どこそこの名水がいいという人もいますが、私は少し手を加えた水道水を使っています。東京などの都会地のマンションなどで水質に疑問があるときは、3分間以上沸騰させた湯を湯冷ましにするか、浄水器の水を使えば十分です。ペットボトル入りのミネラルウォーターなどを買う必要はありません。そうは言っても買う人は買うので、時折苦笑しますが、水に対しては一種の信仰心のようなものがあるようです。

 私の水の加工とは、ものを混ぜたり電気分解したりするのではなく、二つの磁石の間を通すだけです。水は反磁性体で磁石に反発します。また水の分子は、普通は12個が一つの塊になっているんですが、このとき6個ぐらいに、うまくいけば単分子に別れるんです。つまり塊が少なくとも半分以下の大きさなって、粉になじみやすくなります。この水はコーヒーの味を美味しく出すにも、米を炊くにも、化粧水を作るにもたいへん効果的です。高い設備をする必要はありません。古いスピーカーの磁石で十分です。命の水を作ろうを参考にしてください。





蕎麦打ち教室 - 実践編

水回しと練り:

 信州蕎麦は「湯ごね」と言って熱湯で少量の蕎麦粉をこね、そこへつなぎ粉と混ぜた蕎麦粉を加えていくか、または使用する蕎麦粉全部を熱湯でこねて、つなぎ粉を加えていってこね玉にします。この方法では、擦り合わせができない、蕎麦の腰が弱まる、香りも乏しくなるなどのため、つなぎ粉を使わない純蕎麦(10割そば)を打つとき以外は薦められません。純蕎麦にチャレンジするときに、湯ごねを思い出してください。ここでは「水ごね」という、常温の水でこねる方法を紹介しています。冬期や、粉を冷蔵庫に保存した場合は、50度ぐらいの温湯を使うと、こね玉が手の温もりに近い温度になります。熱いと感じるほどの湯は避けましょう。

 蕎麦打ちの成否は、水回しにかかっています。基本的には、合わせた粉100に対して水42〜44ですが、蕎麦の産地、乾燥の程度、製粉後の時間の経過などによって、微妙に違います。数字だけでは管理できないものがあるので、慣れるしかありません。注意点としては、水を容量で計らず、目方で計量することです。

 今回は平均的な数値で、蕎麦粉と強力粉を6:4の割り合いで混ぜ合わせたものを700グラム計量しましょう。合わせた粉は、こね鉢の中で手で混ぜても大丈夫ですし、大きめのポリ袋に入れて空気とともにシェークするといいでしょう。もし神経質なら、合わせた粉をふるいで振っても構いません。粉700グラムに対し水は300グラム、結局、こね玉の目方は1000グラムになります。この数字は、今後の目安になります。こね玉の目方から逆算して、粉の量を計算できるからです。例えば1200グラムの麺を作ろうと思えば、合わせた粉を70×12、水を30×12すればいいわけです。ただしあくまでも目安ですから、粉の乾燥度に応じた水加減を見つけるようにしてください。(なお蕎麦の乾燥が高い場合には、次のページの上達法を参考にしてください)

 テレビなどの蕎麦教室では、水の微妙な調整に氷を使う方法や、水回しを終わって玉にするときに半分だけ玉にして、残り半分で水分を調整する、などという面倒な方法を提唱していますが、そんな必要はありません。あくまでも蕎麦粉と水のなじみをよくすることを心掛けます。絶対に守らなければならないことは、計量した水を20〜30グラムほど残すことです。万一の、乾燥の不十分な粉の場合に備えます。

 粉をこね鉢に入れ、擦り鉢状(1)にし、その中に計量した水の3分の2ほどを注ぎ、粉と水を満遍なく混ぜます。この段階で両手で十分に「擦り合わせ」をします。この擦り合わせは、一般に粉と水のなじみをよくするためと信じられています。が実は、粉と水の他に、空気を細かに気泡として取り込むことも忘れてはなりません。蕎麦とうどんの違いについて述べたところでも触れましたが、細かな気泡が蕎麦の味わいの一つになっているんです。次いで残りの半分の水を注ぎ、軽く擦り合わせます。最後に20〜30グラムの水を残すようにして水回しを終えます(2)。写真ではあまり細かくは混ぜていませんが、締めくくりの段階だからです。この段階で、水分が不足するようなら残った水を加え、さらに不足するようなら、手を水で濡らしてこねます。一般にこの過程は「水回し」と呼ばれ、蕎麦打ちでは最も重要な作業です。それだけに全神経を集中して、一日も早く熟練して欲しいものです。

(1) 

(2)

(3) mpg (882k)

 

 こねるときは、上から押しつけないこと。斜め前下に押し出すようにしてこねます(3および mpeg 882k 参照)。押し出すほうの手と同じ側の足に体重をのせると巧くいきます。写真(3)では左足に体重を乗せて左手で押し出し、上体は正面を向いた腰半身になっています。右半身になっても構いません。こね鉢がクルクル回るようでしたら、絞った布巾などを敷くといいでしょう。写真で分かるように、テーブルに傷をつけないように、私は包装に使われていたスポンジ状のものを敷いています。一般にこの過程を「練り」とも言い、陶磁器の用語から「菊練り」と言う人もいます。こね玉の左やや前方を押し下ろし、右を引き上げることで、麺記事が外から中へと回る結果、菊の花を思わせるような皺ができることからです。

 こね過ぎると小麦粉のグルテンからできた繊維が破壊されるので、玉の表面が滑らかになって、手に触れる感触がまとまりを示したら完了します。何分こねても滑らかにならない場合は、水分が不足していますから、手を濡らしてこね直します。仕上げにこね玉の中央に皺を臍のように寄せて、「ヘソ出し」をします(4)。あまり神経質に考える必要はありません。多少出べそでも、あるいは口を引き締めたようになっても、ちゃんと麺になります。人によっては「くくり」とも言います。

(4) 

(5)

(6)

延ばす:

 麺板の上に打ち粉を振り、その上にこね玉を置いて(5)、手の平と手の平の付け根で押し付けて厚く平にします(6)。(この段階から綿棒で丸く延ばすまでを「丸出し」という人もいますが、私の方法では次第に長方形に近付けていきます。)次に麺棒を中央に置いて、前後に軽く押し転がして、中央部を中心に少し広げ、90度回転させて同様のことをくり返し、次第に全体を平にします(7, 8, 9 および mpeg 655k)。写真では分かりにくいんですが、そうすることで、少しずつ麺生地が長方形に近付いていきます。蕎麦教室では一般に「角出し」または「四つ出し」という手法で、四角にすることを指導しています。後でも言いますが、私のやり方では角出しは不要です。その方法を「足し算」「引き算」という私流の勝手な表現をしていますが、ヒントにしてください。

(7) mpeg(655k)

(8)

(9)

 

 ある程度広がったら、麺生地が麺棒に当たる部分を、麺棒とぴったりするように調整し(10, 11, 12, 13)、手前から手のひらで麺棒を軽く押し回しながら、さらに麺生地を広げます。(11)のように手のひらで回して90度ずつ回転させ、そのつど麺棒に当たる中心部を軽く、本当に軽く押し付けることも有効です。麺棒に巻くまでは、このように足し算(麺生地の内側に軽く押し入れること)で麺生地を調整することもできます。

(10) 

(11)

(12)

 

 麺生地の一辺が50センチ前後になったら、全体に打ち粉を振り(14)、軽く左右に広げながら麺棒に巻き付け(15)、前後を変えてくり返し(16)、続いて90度置き換えてくり返します(17, 18)。

(13) 

(14)

(15)



 蕎麦教室や教科書で指導する角出しの作業は、はじめから麺棒の当て方を調整することで、必要がなくなります。私のこのやり方では、麺棒に巻く行為そのものが結果として角出し同じ効果が出ます。たちまち四角になっていく様子が写真から分かるでしょう?少しずつ長方形に仕上げていくことを常に念頭においてください。はじめの内はどうしても丸くなったり、妙な形になったりしますが、力の入れ方が分かれば、誰でもできるようになりますから。上達したら、角出しの技法を取り入れるのもいいでしょう。新しい業に挑戦するのも、蕎麦打ちのだいご味の一つです。

 

(16) 

(17)

(18)



 麺生地が広がるにつれ、手の動きが問題になります。写真(19)→(20) のように、親指の腹(拇指丘と言う)と小指で麺を左右に引き開くようにします。このとき親指の脇腹を麺板につけて滑らすようにして(21)滑らせることが大切です。こすることで、麺生地に傷をつけることを防ぎ、あわせて真上からの余分な力が加わることもなくなります。(mpeg 1277kも参照してください)なお手を止めるのは麺生地と麺棒の境目になるようにします。もし途中で止めると、そこだけが極端に薄くなり、破れる原因になります。

 麺棒に巻いてからは、全体を引き算(麺生地を外側に引いて延ばすこと)で延ばし、生地と棒の当たる部分で、軽く足し算をしていきます。こうすることで、写真のように確実に長方形に仕上がっていき、麺に厚みのむらができにくくなります。どうしても麺生地の丸みが取れないときは、麺棒に巻きはじめるときに、麺生地の両端を引き算をすることも可能です。ただし一気に行うと、麺生地が破れますので、徐々にしましょう。

(19) mpeg (1277k)

(20)

(21)

 

 麺板の上での作業は、できるだけ短時間で終えるように練習してください。こね玉を麺板に置いてからまな板に移すまでの時間を20分以内に完了することを初期の目標にし、手順を飲み込んだら、少しずつ早めていきましょう。時間をかけると、麺生地の表面が乾燥してサメ肌になり、出来上がった麺がバラバラに切れやすくなります。それから麺生地は風と乾燥を極端に嫌いますから、暑くとも扇風機を使ってはなりません。エアコンで冷房する場合も、風が当たらないようにするとともに、加湿する必要があります。風が当たるとサメ肌になり、折り返しばかりでなく、あらゆるところで割れやすくなります。

 あまり固ごねに過ぎると、麺生地の縁がギザギザになって畳み目が折れやすいばかりか、時間もかかります。柔らかすぎると、厚さにむらができて切れやすく、切った麺が互いにつきやすいという問題が出てきます。水回しにはコツがありませんので、失敗の原因を見つけることで、上達するしかありません。素材の味は変わらないのですから、失敗こそ成功のもと考えて、恐れずにやりましょう。

畳む:

 麺板の上で麺生地の半分ほど麺棒に巻いて、向こう半分に打ち粉を振って(22)、麺棒を逆回しして折り返し(23)、畳みます(24)。が、しっかり畳んではなりません。畳めば、折り目で切れますから。紙を2枚に折るようにするのではなく、折り返しの部分の断面が半円以上の丸を描くようにします。それには折り返しになる部分にやや多めに打ち粉を振るといいでしょう。打ち粉を振ってから(25)、包丁の刃渡りの半分から7割ぐらいの幅になるように、さらに折り返します(26)。まな板に打ち粉を振って(27)、まな板に移し、上にも打ち粉を振ります。麺生地同士は、あるいは麺生地とまな板やこま板とは、打ち粉を介して接するようになりますね?包丁がまな板まで届かず、せっかくの麺がすだれ状になることを防ぐとともに、切った麺がお互いにくっつかないようにするためです。

 まな板に移すとき、畳んだ麺生地をぐるりと回して、折り返しの多いほうが手前にくるようにします。なぜか手前のほうが、包丁を入れたとき折れにくく、先のほうが折れやすいからです。なお、麺生地の縦横の長さと包丁の刃渡りの加減によっては、畳んだ麺がまな板と直角になるような畳み方をすることもあります。

(22) 

(23)

(24)


(25) 

(26)

(27)


切る:

 包丁は手前にひいてはなりません。麺の上にコマ板を置いて真直ぐ下に押し切るより気持ち前に押し出すようにして切ります(28)。包丁をかすかに傾けて(29)、コマ板を移動させながら、切り進んでいきます。写真でははっきりしませんね?包丁を傾ける角度で、麺の幅が決まってきます。一本一本の麺の幅が狭いですから、はっきりしないのです。コマ板を押し付けないように、軽く指を置きます。足の向きと位置にも注意してください。左太ももをテーブル(またはまな板)につけて、左足がまな板と直角になるように半身に立つと(30)、包丁裁きが安定し、角度が狂いません。右を前に半身になると、包丁が前掛けやズボンに当たって傷つけることがあります。

 手早くリズミカルに切ることが大切ですが、刃物ですから、急いで怪我をするようなことのないように十分注意してください。切りあがった麺は適当な束にして、中ほどより上を軽くつかんで振り、上下を持ち替えて同じことをして麺についた打ち粉を粗く振り落とします。まな板に残った打ち粉はふるいで振るって紙袋に入れ、乾燥して保存し、次回まな板に使うようにします。麺生地には新しい打ち粉を使いましょう。

(28) 

(29)

(30)

ゆでる:

 大きめの鍋にたっぷりの湯を沸騰させ、味や臭いに影響が無い範囲で酢を10〜20ミリリットルほどたらします。麺を引き締める効果があり、しっかりした腰のある麺ができます。火力を強くして、できるだけ短時間にゆであげるようにしましょう。麺は1人前を、最大でも2人前を、広げるように捌き入れます。さい箸は控えめに、麺が団子にならないように最初に少し使うだけにします。使わないで済めば、それにこしたことはありません。

 打った直後の麺には細かな気泡が多数含まれているので、湯に浮く場合があります。新鮮でおいしい蕎麦の証拠ですから、特別な対策は要りません。浮いたからといって、生ゆでになることはありません。

 沸騰したら、ゆであがりです。ただちに火を止めます。二八蕎麦などつなぎの小麦粉の少ない場合は直ちに、小麦粉の多い場合は3〜5秒ほど余裕を置いて、すいのうなどの柄付きの網で掬って湯から上げます。流水でぬめりを洗い流し、麺を引き締めます。すいのうなどが無ければ、鍋やボールなどの上に網かざるを置いて、その上に鍋から空けると、ゆで湯も楽しめます。別法として、あらかじめ汲んでおいた冷たい水の中に麺を入れ、手早く粗熱をとって水を替え、もう一度冷水で引き締める方法や、柄付きの網で水をかけ流しながら同時に鍋を冷やし、麺を網から鍋に移して、改めて水で洗う方法もあります。私はふだんは、第二のやり方をしています。

後の仕事もきっちりと

 地域によって色んな呼び方がありますが、蕎麦をゆでるのに使った「ゆで湯、またはゆで汁」を利用しましょう。底のほうの濃い部分は、蕎麦を食した後の汁(つゆ)と混ぜて賞味します。だからと言って、上澄みを捨てるのはもったいないですね?蕎麦のポリフェノールがたっぷり溶けていますから。澄んだ部分は味噌汁やスープなどに、とろっとした部分はカレーなどに使って欲しいものです。蕎麦が仙人食と言われる所以の一つは、このポリフェノールの効果によるものですからね?

 麺切りに使った包丁は、そのままにしておくとさびますから、こびり着いた麺生地の滓をていねいに拭って仕舞います。プラスティックの板などで、そぎ落とすと怪我の心配がありません。くれぐれも傷をしないように注意してください。時々研いでください。

 麺打ちをすると、どうしても台所が粉だらけになります。男性が蕎麦打ちにチャレンジする場合でしたら、主婦の神聖な城をきれいに掃除してお返ししないと、蕎麦打ちは歓迎されなくなります。同じように、粉の調達から口に入るまでばかりでなく、使った道具や食後の片づけも素人蕎麦職人の仕事にしておいたほうが、後々のためでもあります。もてなしのだいご味は、ふだん台所仕事に追われる人たちを、そのときだけでも解放してあげられることにもあるんですから。

 蕎麦は打ったら即ゆでて食べるのがいいんですが、どうしても作り過ぎることがあります。蕎麦はたいへん傷みやすいので、そんなときはシールパックに紙を敷いて、麺の上にも紙を載せ、密閉して冷蔵庫で保存します。冷蔵庫では結露して、麺が締まって喉越しが落ちます。できるだけ早く食べましょう。ただし絶対に新聞紙を使ってはなりません。うどんは大丈夫なんですが、新聞紙で保存した蕎麦は、ゆでると赤くなります。蛸じゃないんですから、ね?

 もう一つ、素晴らしく錬金術的な方法があります。パックに入れて、親戚、友人、ご近所に、はじめて蕎麦打ちをしたんだけど食べてくださいとお持ちするんです。高価なものをいただくと負担に感じますが、蕎麦1パックなら負担に思わないばかりか、物を通して心を通わせるという素晴らしい効果があります。心は人にあげられませんが、心を込めて打った蕎麦は誰にでも喜んでいただけます。誰かに食べてもらおうと思う心と、ご馳走様という感謝の言葉で、上達がいっそう早まります。私は反応の無い人には、二度と差し上げません。つまらないもの....

 ここでは、はじめて挑戦する蕎麦打ちとして、失敗の少ない蕎麦粉6割の六分蕎麦を説明しました。ふだん私は蕎麦粉7割の七分蕎麦を打っていますが、蕎麦通を自認するお客さんには二八蕎麦を打ってさしあげます。少し慣れたら、ぜひ二八蕎麦を打ってご覧なさい。ていねいに打たなければならないので、蕎麦打ちのコツがつかみやすいという利点がありますので。な〜に、そんなに難しくはありません。別のページで述べる、私が失敗から得た上達法も参考にしてください。