失敗に学ぶ蕎麦打ち上達法


▼ 本題に入る前に秘訣を一つ ▼ ゆでると切れるが... ▼ 粉に問題は?
 ▼ 水回しは? ▼ こね加減は? ▼ 麺板上の作業は? ▼ 麺切りは?
▼ 保存法などは? ▼ ゆで方などは?


 賢者は歴史に学び、愚者は失敗に学ぶと言います。残念ながら私はグシャグシャの部類で、これまで数限りない失敗をくり返してきました。その失敗の中で学んだことを列挙して、これから蕎麦打ちをはじめる人や、何度か試みても上手くいかないという人の指針としたいと思います。いわば私の恥じさらしの場ですね?

 でもねぇ、失敗こそ最高の上達法なんですよ。今でも私は失敗しています。いいじゃないですか、失敗したって。命にかかわるわけじゃなし...


本題に入る前に秘訣を一つ

 2000年産の玄蕎麦は、気候が温暖に過ぎたための高温障害が認められます。はっきり言って乾燥が行き過ぎですから、水加減が難しいです。玄蕎麦の水分は15%程度が理想ですが、今年は10%近いものもあります。それなら蕎麦粉500グラムにつき20グラム余分に加える、つまり七分蕎麦なら合わせた粉700グラムに水を300+20して合計320グラムを加えればいいわけですが、そうは理屈通りにはいきません。それではベトベトして、明らかに水が多すぎると感じますね?それでも巧くいかせるには、粗くこね玉にしたら直ちにポリ袋に入れるかラップに包んで、3〜5分ほど放置して休ませるといいですよ。それからこね鉢に戻して練れば、粉と水が十分に馴染みあって、きめの細かいコネ玉が得られます。この方法は、逆に乾燥の低い、水分の多いものにも使えます。蕎麦打ちの常識からすれば「邪道」だそうです。だって昔はポリ袋なんてなかったから、こんな方法は考えられませんでした。邪道であろうがあるまいが、美味しくなれば問題はありません。素人蕎麦職人流秘伝の奥義です。

 

ゆでると切れるが....

 蕎麦は「薄く、細く、長く」が命です。それには麺生地を均等の厚さにするよう心掛けなければなりません。それをいいかげんにすると、ゆでると切れることになり、結局「厚く、太く、短い」麺に劣ることになります。薄く、細く、長く仕上げるためには、色々な注意が要ります。その注意点を列記しましょう。

粉に問題はありませんか?

 そば粉は古くありませんでしたか?古い粉は香りも悪いし、腰がありません。できるだけ新しい粉を使うようにしましょう。

 つなぎ粉には十分な麩質がありましたか?グルテンの少ない地粉、薄力粉は不可。そば専用粉または強力粉を使うとうまくいきます。小麦粉も古くなると腰がなくなりますからご注意を。

水回しはどうでしたか?

 水が多すぎませんでしたか?、あるいは少なすぎませんでしたか?水が少なくて麺が硬すぎると折り返し部分が割れやすくなり、柔らかすぎると厚みが均一でなくなって切れやすくなります。粉ごとに適切な割合が異なるので、水加減を体で覚えるようにします。

こね加減はどうでしたか?

 こねに過不足はありませんか?短時間だから悪いとはかぎらないし、長時間だからよいわけでもありません。テンプラの衣でも練ってはいけないように、蕎麦もこね過ぎはグルテンの繊維がバラバラになて、麺が切れるもとです。こね玉の最良の状態を体で感じるようにしましょう。

 こね玉を休ませてやりましたか?乾燥の程度にもよりますが、3分前後休ませるのを習慣にしても大丈夫です。この間に道具の手順を整えればいいでしょう。以後は一切休んではなりません。

 空気を抜きましたか?へそ出しをして、こね玉の中の空気を抜くことが一般に常識とされています。私は別な理由からへそ出しが必要だと考えていますが。

麺板上の作業は手早くいきましたか?

 麺板にこね玉を置いてから、包丁を入れるまでの時間は20分以内でしたか?麺板の上での作業は、どんなに長くても20分以内に完了するようにしましょう。

 生地を丸く延ばしませんでしたか?丸いと麺棒に巻くだけで生地の厚さにむらができます。四角に延ばすように心掛けましょう。必要とあれば、角出しを行いますが、足し引きで次第に長方形にもっていく方法だと、麺生地にムラができないため、切れることが少なくなります。

 力の入れすぎはありませんでしたか?どうしても手を止める部分の生地が薄くなりがちですから、注意して均一に延ばせるような力の入れ方を工夫してください。

 扇風機の風や、乾燥した風が当ってはいいませんでしたか?蕎麦は著しく乾燥を嫌うので、扇風機は使わないようにしましょう。風が当たると麺生地がサメ肌になって、どこからでも切れやすくなります。

麺は巧く切れましたか?

 切った麺がすだれ状になっていませんでしたか?麺の下に取り粉を薄く万遍なく振っておくことで包丁が麺を完全に貫きます。

 麺を屏風状に畳んではいませんでしたか。麺の折り返しを少なくし、折り返し部分が重ならないようにしましょう。

 包丁を手前に引いたりしませんでしたか?包丁は真直ぐに下ろすか、ホンの気持ち前に突き下ろすようにします。手前に引くと一部がめくれるようになって、生地が破れるもとです。

 左足をまな板に直角にして立ちましたか?半身になって、左太ももをテーブルに当てるようにすると包丁裁きが上手くいきます。

麺の保存と取り出しに問題はありませんか?

 そばを冷蔵庫に保存するときパックに直に麺を入れていませんでしたか?結露した水滴が麺に点で接することのないよう、必ずキッチンペーパーのような紙を麺の上下に敷いて、麺が直接パックに触れないようにしましょう。新聞紙は絶対に不可です。

 冷蔵庫に保存した麺を直接鍋に入れていませんでしたか?ゆでる1〜2時間前に冷蔵庫から出して馴染ませるようにします。

ゆで方などに問題はありませんか?

 火力は十分でしたか?強い火力で一気にゆで上げることが大切です。電気などの弱い熱源のときには、1回にゆでる量を少なくし、一人前ずつゆでるようにします。

 湯の量は十分でしたか?湯が少ないと団子状になって切れやすくなります。大きめの鍋に湯は多めにすることが大切です。

 湯に酢をたらしましたか?酢には「締める」力があって、麺の腰がくだけなくなりますし、沸点も微妙に変化します。味や香りに影響のない程度に酢を入れてみてください。冷し中華で試すと違いがよく分かります。

 1回にゆでる麺の量は多すぎませんでしたか?1人分ずつ、多くても400g以内をゆでるようにしましょう。

 麺を捌かずに鍋に入れませんでしたか?。保存した麺は細かな気泡が抜けて、時間とともに硬くなり、締まっきます。手の平の上で優しくほぐしてから、撒き広げるように鍋に入れるようにしましょう。

 ゆでる際にサイ箸でかき回しませんでしたか?サイ箸は麺がくっつかないようにするために、鍋に入れた最初の段階だけ使うようにしましょう。

 すいのうで麺を切ってしまいませんでしたか?できれば平らなすいのうを使い、1度に全部の麺をすくい取ると楽にいきます。空いた鍋やボールの上にざるや網を置いて、その上に鍋からあけるのが一番上手くいく方法です。

 
 一つ二つミスしても問題はありませんが、いくつか重なると失敗に繋がります。失敗しても、さほど味は落ちませんので、ついいいかげんになりがちですが、小さなことにも注意が行き届くことこそ、素人蕎麦職人の誇りでもあります。いかがですか?今度は巧くいったでしょう?