蕎麦つゆを作ろう



蕎麦だけでは食べられない

 せっかく蕎麦の手打ちに挑戦して、ゆでてはみたけれど、それだけでは食べられませんでした!ダシと返しが要るんですね?返しとは、一般に醤油とみりん、砂糖で作った味成分です。ダシの取り方や返しの作り方は、手取り足とりというマニュアル的な難しさはありません。が、やっぱり流儀がありました!昔こう教えられたから、それしかないという頑固な職人技や、いやオレのが一番だという天狗印まであります。




返しを作ろう

 あちこちの様子を見て、蕎麦打ちにもずいぶん流儀があることや返しにも少しずつ違いのあることが分かったと思います。そこで私流の返しの作り方です。ヒントにして自分流を見つけると楽しいですよ。色々試みてください。

 用意する材料は醤油、みりん、清酒だけです。醤油はふだん家庭で使っているものが、味に馴染みがあっていいでしょう。鍋はアルミやアルマイト製のものは避けます。アルミ地金にテフロン加工などが施されているものは大丈夫です。土鍋の類いを使うまでもありません。

醤油3に対しみりん2を基本にしますが、甘味の足りない場合はみりんを少し増やします。一般に都会では甘味を好むようです。好みによっては、みりんを醤油と等量にまで増やしも構いません。

これを鍋に入れて、泡がほんの少し出る程度のとろ火で煮込みます。醤油によってはアクが出ることがありますから、すくって捨ててください。

20〜30分でみりんのアルコール分が蒸発し切りますから、火を止めて、仕上げに清酒を数滴たらしてからびんに移して保存します。最後に清酒をたらすことで、返しの味が引き締まります。1週間以上寝かせると塩分がなじんで、癖のない返しに仕上がります。

 みりんは煮切っても醤油は沸騰させてはならないというのが、あちこちでご覧になった返し作りの注意点でしたでしょう?砂糖も使っていますね?それなのにここでは、砂糖は使わないし、醤油は煮切るようにという指示です!さぁて、あなたはどうなさいますか?試みに少量作って比べてみてはいかがでしょう?私流ですと、甘味が後を引かないし、生醤油の香りも感じないでしょう?どちらがいいかは、それぞれの好みです。これしかないという江戸好みの通人には薦められませんが。




  

ダシを取ろう

 ダシの取り方は家庭により地方により色々あります。私はカツオ節、ソウダ節、サバ節を、大雑把に等量使っています。入手可能なものだけでも構いません。もし一種類しか手に入らなかったら、それでも大丈夫です。素人職人流では、無い物ねだりをいたしませんから。

 ここでも鍋が必要です。ふだん蕎麦をゆでるのに使う大きな鍋に湯を湧かして、大量に作って保存しています。ダシは非常に傷みやすいですから、一度びんの口を開けたら、冷蔵庫に保存しなければなりませんので、冷蔵庫に入れやすい大きさのびんを用意する必要があります。

 用意するものは、鍋の他に材料の節と化学調味料と酢を少し使います。酢!?とお思いでしょう?酢こそ私流の素人蕎麦職人の奥義です。蕎麦をゆでるにも酢をたらしましたね?節の持つ生臭さを消しながら、ダシのいい香りを保ちますし、味を引き締める効果もあります。サバを酢で締めた「シメサバ」の、あおの美味しさを思い出してください。市販のシメサバは甘過ぎますがねぇ....

 味や香りに影響のない程度に酢をたらし、化学調味料を入れた湯が沸騰したら、節を入れます。酢と化学調味料は沸騰する前に入れておきます。中で節が回る程度に煮込みながら、ていねいに血アクを取り除きます。30〜40分で完成です。あらかじめびんを温めておいて、そこへ熱いダシを漉して移し、密封して保存します。一度封を切ったら、必ず冷蔵庫に保存してください。

 ダシと返しを混ぜれば、蕎麦つゆの出来上がりです。蕎麦をゆでる直前に合わせるようにしてください。返しの中のみりんは、節の香りを消す作用がありますから、早くに合わせると香りが死んでしまうからです。どの程度の割り合いでまぜるかは、人それぞれです。お客さまをもてなすときは、標準か、やや薄めに合わせて、返しだけを醤油さしなどの入れ物に入れて、各人の味を調整できるようにすると喜ばれます。くれぐれも蕎麦はこう食べなければならないとか、つゆは少しつけるものだなどと、通人ぶったことでお客さまの心を傷つけないようにしましょう。やっと口に運んでいただけるというそのとき、せっかくの苦労が水の泡になってしまいますし、悪くすると良好な人間関係が崩れてしまうかもしれませんから、ね?

 試して欲しいものに、割き烏賊もあるんですよ。烏賊でつくった酒の徳利を見たことがありますか?酒の味が一段と美味しくなるんですね?あの原理で、割き烏賊でダシを取るんです。その場合、少量の酢は使ったほうがいいですが、化学調味料は不要です。割き烏賊は味付けになってるんですね?やや高価につきますので、大量に作る必要はありますまい。すっきりした味は、暑い季節にはたいへん適したものです。

 私が3種類の節を使うわけは、それぞれの持ち味によります。カツオ節は香りがよく、ソウダ節はコクがあり、サバ節は味があります。味のソウダ節やサバ節には、多少の生臭さもあります。この臭いを酢が抑えてくれるんですよ。もし煮干しを使うようなら、頭と腹を取り除いたものを使います。煮干しにはかなりの生臭さがありますので、丁寧にアクを取り除くことと、酢を使うことは絶対に必要です。

 昆布ダシを使う方法はお薦めです。ただ私は物臭でセッカチですから、化学調味料で代用しています。あなたが本格派でしたら、ぜひ昆布ダシをお使いください。よかったら、私にもご馳走してくださいませんか?